「もう、俺は君の涙を拭ってやれない。幸せになれっ!」


「…路木さん。」


「イタリアに来ることがあったら、案内くらいしてやるよ。」






路木さんは、あの優しい笑顔で言って、
それから私を抱き寄せた。


抱きしめる、というには曖昧すぎる、そんな触れ方だった。




「…頑張りすぎるなよ。」



私を励まし続けた魔法の言葉だと思った。

一気に涙が溢れだす。



自分がどれだけ支えられて、どれだけ甘えていたのか、今になってハッキリと分かった。






「…はぃ。」



声は擦れてしまった。






返事をした後で何となく気配を感じて、そちらに視線をやる。



かちりと目が合った相手は――





「…佐、倉くん……。」




その瞳は見開き、表情には驚きが見える。


この状況が、果たして佐倉くんの目にどう映ったのか。
そんな疑問が脳裏に浮かんでハッとした。