「佐倉くんだね…。」
そう言って路木さんは微笑むけれど、
悲しそうに、寂しそうに、目を伏せた。
「…路木さん。ずっと、私を見ていてくれてありがとうございました。
それに気づきもしなかった私はバカだけど、路木さんは最高の上司です。
路木さんがいてくれたから、私、仕事の楽しさを知りました。今日まで、ここでやってこれましたっ。」
何でだろう…何で、私が泣きそうなんだろう。
泣くべきじゃないと思った。
よく分からないけど、泣くのはズルいと思った。
路木さんの気持ちは本当に嬉しくて、私には勿体ないくらいで……でも、だから。
それに答えることの出来ない自分が、路木さんを傷つけたのは確かで。
――きっと、佐倉くんに出会う前ならば、私は迷うことなく路木さんの胸に飛び込んでいたかもしれない。
……いや、違う。
私は、仕事を捨てられないだろう。
捨てられない。
「そんな顔するなよ。」
悲しそうに、路木さんは微笑んだ。
自分が泣きそうな顔をしているんだろうと思ったら余計に泣けてきて、ふいに涙が零れ落ちてしまった。