香織さんからの娘ちゃんが風邪だったという連絡の後(インフルエンザじゃなくて良かった)、山崎くんからも店に電話があった。
それは、もうレジ締めも終わり、店内の電気全てを消そうとしていた時だ。
「急性胃腸炎?」
『はい。すみません、迷惑かけて。』
筋金入りのチャラ男、山崎くんの声が珍しく沈んでいる。
「それで、大丈夫なの?」
『はい。点滴打って、吐き気も収まったんで。』
「そう、良かった。」
「明日から普通に出勤します」という山崎くんの電話を切った時だ。
「芳乃ちゃん。」
振り返らなくても、それが誰だか分かるのは、
私のことを“芳乃ちゃん”と呼ぶのは本当にごく少ない人間である事、ましてや男だと路木さんだけだからだ。
「…いらっしゃらないから、もう帰っちゃったのかと思いました。」
「南沢町店の方に顔を出してたんだ。」
言いながら、路木さんは店内をぐるりと見渡して、今日の売上報告に目を通す。
店に溢れる温かいオレンジ色の照明は、すでに半分以上消してしまったために薄暗い。
ハピーズ飯崎店自体の照明も半分以上落ちているから余計にだろう。