「…ずいぶん臆病なんですね。辛い恋の経験でも?」


「いや…。」



「いいえ、まったくありません」、とは勿論言えない。



「芳乃さんは生真面目すぎるんですよ。マリなんて、ちょっとイイかなって思ったら付き合っちゃいますよ。」




それから一拍置いて、マリちゃんは言葉を続けた。



「それに…芳乃さん、色々な物に縛られてません?」


「えっ?」


「常識とか、プライドとか。
マリはよく分かんないけど、大人ってそうなんですか?傷つくのが怖くて、とか。カッコ悪いのが恥ずかしくて、とか。
そうやって防御して身動き出来なくなって。」


「…………。」


「マリからしたら、そんなのバカみたい。」


「マリちゃん…。」



マリちゃんは、ニッと微笑んでみせる。





「簡単なことじゃないですか。重くて余分な荷物なら捨てちゃえばいいんです。
全部剥ぎ取って最後に残るモノ、大切なのはそれだけです。」








あぁ、私バカだ。





マリちゃんは、私の背中を押してくれている。


失恋して、傷ついて、乗り越えて。
自分の足で立っている。




なのに、私はぐだぐだ言ってるだけで優柔不断で……。





佐倉くんに恋をして真っ正面から勝負した彼女に、私は何を言わせてるんだろう。