* * *――…
居酒屋『子桃』はとても賑わっていた。
周りの客はむさ苦しい上に妙に汗臭い男ばかりで、女同士の客は私とマリちゃんだけだ。
マリちゃんは、車だから、と酒は注文せず、
私も何だか今日は飲む気分にならなくて二人揃ってウーロン茶を注文した。
思えば、マリちゃんとちゃんと話をするのは、あのマリちゃんが“壊れた日”以来。
周囲のガヤガヤとした騒めきとは程遠く、私たちの間にはピンと張り詰めた空気が漂っていた。
……どうしよう。
何となく気まずくて、やっぱりビールでも注文しようかと思い始めた頃、
ウーロン茶を飲み干してマリちゃんは口を開いた。
「芳乃さん、路木さんと何かあったでしょう?」
「えっ!?」
驚いて顔を上げると、マリちゃんは頬杖をついて私を凝視している。
そして、
「やっぱり。」
と、呟くのだった。