「路木さん。コイツ、芳乃さんの彼氏候補なんすよ!」


山崎くんは佐倉くんの肩を掴んで、そう言い放った。


私は、その瞬間サァッと青ざめていく。




「彼氏候補?」


「なぁかなか芳乃さんが返事くれないんだよなっ?」



おい、山崎。
お前、その口塞いでやろうか…?





「まぁ、気長にやりますよ。」


何も知らない佐倉くんは平然と答える。


路木さんはというと、

「へぇ。」

と、呟いて微笑し、私を見つめた。


その視線に心臓が跳ねて俯く。

思いきり目を逸らしてしまった。
きっと不自然だっただろう。




そして、
そんな私の様子をマリちゃんが見つめていたが、私は気づかなかった。





「路木さん、いつまでいるんすか?」

と、山崎くんが尋ねる。



「明日までかな。ここへ来るのも、今回が最後になるよ。」


「え?」


「俺はエリアマネージャーじゃなくなるからね。
年が明けたらイタリアへ転勤だ。」


「イタリア!すっげぇ!」



テレビの向こうのお笑い芸人のような大袈裟なリアクションで声を上げる山崎くんは、

「俺、海外行ったことないんすよー。」

と、どうでもいいことを付け足す。