あの日は…「返事は今じゃなくていいから考えておいて」という路木さんの言葉に甘えてしまった。
だけど…佐倉くんに何の返事も出来てないっていうのに、どうしろっていうのよ。
あれだけ望んでいたはずのモテ期、
でも、いざ本当にやって来るともうどうしたらいいのか……。
「芳乃さん、またぼんやりして。仕事してくだサイ?」
「…はい。」
本日は月に一度のクリンネス。
バイトメンバー全員が出勤して、一日がかりで店内中の掃除をする日。
私と佐倉くんは、バックルームの整理を行っていた。
狭い空間で佐倉くんの横顔を盗み見ながら思う。
路木さんは、私が思い描く理想の王子様で、
大人だし、包容力もあって優しいし……イタリアで新婚生活、なんて妄想にときめいてしまったのも事実だ。
でも。
私の目は佐倉くんを追いかけてしまっている。
それを、止めることなんて出来ないと思う。
そして、何より、私は私の仕事を捨てられないだろう。
「芳乃さぁん!」
バックルームに顔を出して、山崎くんは言った。
「お客さん来てます。」
「誰ー?」
「路木さんですよ。」
…………はい?