「お話が、あります。」
路木さんは、目を伏せて小さく笑った。
「偶然だね。俺も、芳乃ちゃんに話があるんだ。」
「え?」
私に向けられた薄茶色の瞳は、思わず息を呑むほど綺麗だった。
「芳乃ちゃんから言って。」
「…あ、あの、転勤の話って本当なんですか?」
「…………。」
「…イタリア支社って。」
「本当だよ。」
それは、とても穏やかな声だった。
私の心にストンと何かが落ちて、すっと冷静になる。
あぁ、そうなのか、と受け入れることは簡単なのだと知った。
「寂しくなりますね。」
海に視線をやれば、光が水面を包んでいる。
キラキラと輝く。
「こうして飲みに行けなくなるし。」
私たちを包む、
「さすがに遠いですよね、海外だもん。」
朝焼けは温かい。
「…だったら、ついてくればいい。」