佐倉くんと行った、佐倉くんのお兄さんがやっている隠れ家のようなバーと対照的に、この店は広々としている。




座り心地の良い上等な椅子に、アンティークのような木製の丸いテーブル。

100席くらいはあるだろうか。


仕事帰りのOLやサラリーマン、カップルで賑わっていて、外国人も多い。




比較的明るめの店内の照明はガス灯で、席上ではキャンドルの炎がゆらゆらと揺らめく。



そして、
驚いたことにジャズの生演奏まで入っていた。


ピアノを弾いている黒人のオジさんは全身からジャズの香りを漂わせ、ボーカルの女性はエクボのできる笑顔で歌う。


もう、この雰囲気だけで酔ってしまいそう。

ムーディーというか、ロマンチックというか…。



さすがは路木さんだ。




やっぱりモテる男は選ぶ店も完璧。
私のような庶民とは根本的に住む世界が違うのだ。




……そして、また、この美形の上司は嫌味なく、こういう所が似合ってしまう。






「何がいい?」



そんな事を私が考えているとは思ってもいないんだろう路木さんが言った。