店内はカップルばかりで、佐倉くんのお兄さんは馴染みの客と思われる人たちと楽しそうに談笑していた。
スーツ姿のバーテンダーがシェイカーを振る音に耳を傾けていると、
「何がいいですか?」
と、佐倉くんが口を開いた。
「…私、カクテルって殆ど知らないの。いつもビールばっかだし。」
肩を竦めて言うと、佐倉くんはクスリと笑う。
「もしかして緊張してます?」
「なっ!?」
「可愛いですね。」
さらりと、まるで「良い天気ですね」とでも言うように言われて、私は殆ど呆然としてしまった。
「そうだなぁ…綺麗なのがいいですよねぇ?」
佐倉くんは分かっているのか、いないのか、独り言のように呟いた。