店内に入って右側がバーカウンターで、
薄暗い中でも整然と並べられたボトルがその肩を光らせる。
店内の左側にはソファー席があって、真っ白なソファーの向こうの大きな窓からは街の夜景が一望できた。
普段、庶民的な居酒屋ばかり行く私でも分かる、
ここは洗練された本格派バーだ。
何てお洒落なんだろう。
挙動不審な私とは違い、佐倉くんは慣れた様子でカウンター席から一人の男性に声をかけた。
それから、
「芳乃さん、これ兄貴です。」
と、紹介されて私は慌てて頭を下げる。
「は、初めまして!」
黒いスーツに身を包んだ男性は、
「弟がいつもお世話になってます。」
と言って笑った。
確かに、佐倉くんとはあまり似ていない。
男性は口髭を生やしていてワイルドな男という感じだし、瞳は切れ長。
でも、笑顔はやっぱりどことなく佐倉くんと似ている。