水族館から外へ出ると、もう街は日が暮れかけていた。
夕焼け空と夜空が混じりあって滲んだような紫が広がる。
メシ食いません?、
そう言った佐倉くんに連れられてやって来たレストランは、レストランというよりカフェのような印象だった。
大通りから外れた路地にあって、
店内は東南アジアのリゾートのような雰囲気。
どこの物か分からないが民芸品や石像が飾られていて、異国の香りが漂う空間だった。
「さすがモテる男は違うわね。よくもまぁ、こんな洒落たお店を知ってること。」
言いながら、これじゃまるで皮肉だと思った。
何言ってるんだろう、私は。
もっと気の利いたセリフの一つも言えないのか。
「実は、俺も初めて来たんです。」
「え?」
佐倉くんはバツが悪そうに頭を掻いて、
「水族館も、ここも、雑誌の『デート特集』に載ってて。」
と、言った。
「…わざわざ調べたってこと?」
「俺も、考えてみたらデートらしいデートってしたことなかったんです。
今までいつもテキトーで、恋愛にしてもテキトーに遊ぶ女はいたってハッキリした彼女とか、考えてみたらいたことないのかもしれません。」
佐倉くんは曖昧に笑う。