「本当に、やんなっちゃう。この女のおかげで全然進展しないんだから!芳乃もそう思わない?」
「んー。」
「…………。」
ぼんやりとしている私の様子を見て、若菜は大袈裟に溜め息を吐き出した。
「無断欠勤の子は無事出勤してきたんでしょ?」
「ん。」
気まずそうにしながらも、マリちゃんは『みかづき屋』に戻ってきた。
今までと変わらず、笑顔を振りまいて仕事をしている。
「年下の新人クンにも、ちゃんと返事したんでしょ?」
「…………。」
「…まさか、何の返事もしてないの?」
私が黙って頷くと、若菜は目を見開いて、
「呆れたっ!」
と、呟く。
心の底から呆れたらしい表情で。
無断欠勤をしたマリちゃんの家に行き、
佐倉くんに告白された、あの日。
私はぐでんぐでんに酔っ払って若菜に電話をかけていた。
だから、若菜は知っているのだ。
マリちゃんの事も。
……佐倉くんの事も。