「こんなことくらいしか、出来ないから。」


「…何、言って……。」


「今日だって結局、芳乃さんに迷惑かけて…。
今までテキトーにやってきたツケかな。俺、勉強も人間関係も女も、努力しなくても上手いことできたんです。
けど、ここでバイト始めてから…芳乃さんに出会ってから、今までテキトーだった自分が情けなくてカッコ悪ィなって思って。」




佐倉くんは、泣きそうな顔をしていた。

それは苦しそうで、辛そうで、切なそうな。




「っんとに…どんだけガキだよって思い知って。」






男、という生き物の、
そんな表情を見るのは初めてで、ぎゅうっと心が締めつけられる。










どうしよう。

私、愛しいと思ってしまった。










「今の俺じゃ…。」




佐倉くんが言い終わらないうちに、私は佐倉くんの頬に触れていた。


それは、ほとんど無意識だった。





佐倉くんは、アーモンドのように丸っこい瞳を見開いて私を見つめる。





触れた頬は温かくて、
自分の手が冷たかったことに気づく。