しかし、
店の前まで来た時、私の中に衝撃が走り動けなくなってしまった。
僅かな明かりがついたままの薄暗い『みかづき屋』に、彼がいた。
私の瞳が映しだす彼は、私にまだ気づいていないようだ。
真剣な眼差しで三段ほどの脚立に腰掛け、商品棚を見上げていた。
端整な横顔、スタイルの良さ、すらりと伸びた長い足。
黒のエプロンはつけていない、
佐倉くんは仕事をする男の顔をしていた。
つい見惚れていると、ふいに佐倉くんと目が合い、私は慌てて逸らした。
「芳乃さん?」
ドキリとした。
心臓が煩くて、息苦しささえ覚える。
マリちゃんから、あんな話を聞いたせいだ。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「…佐倉くんこそ。」
可笑しな沈黙が訪れて、
私はそれが堪らなく嫌で必死に話の糸口を探す。
「……あっ、佐倉くんがマリちゃんのシフトもやってくれたのね。ありがとう。」
「…武本さん、どうでしたか?」
「また、ここで働きたいって。」
佐倉くんはホッとしたように、
「そっか。よかった。」
と言った。