香織さんにも、マリちゃんにも、佐倉くんにも。
言いたいことは数えきれないほどあったけど、それらを口にしたら今日まで築いてきた関係は、きっと砂の城のように崩れていくだろう。
私は、たぶん臆病なのだ。
鉄の鎧で身を包み職場という戦場で戦っているけれど、心は薄いガラスのようなもの。
バラバラと、砕け散るのは簡単な気がする。
砂の城を崩してしまうくらいなら、自分が傷つくほうを選ぶ。
それが、円滑な人間関係に繋がるのであれば構わない。
昔、何かの本で読んだことがある。
仕事を辞めてしまう一番の理由は人間関係だ、と。
店長になったばかりの頃、私の目標は働きやすい職場を作ることだった。
その思いは今も変わっていない。
私は決してお人好しではないけれど、マリちゃんの上司ではある。
ウザくて熱い、
そしてほんの少し世話焼きな上司なのだ。