「武本さんっ!!」
その声は紛れもなく佐倉くんで、彼は店のエプロンを身につけたままの姿だった。
「…っあ、れ?芳乃さん?」
酷く慌てた様子で息を切らしながら、佐倉くんは呟いた。
私はそんな佐倉くんに冷めた視線を送る。
そして、マリちゃんはといえば佐倉くんが登場した途端、クッションに顔を埋めて突っ伏してしまった。
「とにかく辞めますからっ!もう、マリの事はほっといてくださいっ!!」
「マリちゃん…分かるけど、分かるけどね、本当にそれでいいの?本当に――。」
私の言葉を遮って、マリちゃんは声を荒げる。
「芳乃さんはいいじゃないですかっ!やりがいのある仕事もあって、自立してて…マリなんて、どーせフリーターだもんっ!
どうって事ないですよ!またテキトーにバイトなんか探せばいいし、たかがバイトだし!」
胸の内をぐるぐると浮遊していた怒りの塊が、
その瞬間パチンと、シャボン玉のように音を立てて弾けた。
「……冗談じゃないわよ。」