『武本(タケモト)』という手書きの表札が掲げられているマリちゃんの部屋は一番奥だった。
インターホンを押すと、
「はぁ〜い。」
という間延びしたマリちゃんの声が返ってくる。
その声は、いつもより沈んでいる気がした。
扉が開いた瞬間、
マリちゃんが私を認識するよりも先に、私は扉に手をかけて勢い良く開けた。
「芳乃さんっ!」
愛らしい大きな瞳を見開いて、マリちゃんは酷く驚いていた。
「お疲れさま。」
「…お疲れさまです。」
「少し上がらせてもらってもいいかな?」
感情的にならず、冷静に。
そう自分に言い聞かせながら、私は無理やり笑顔を作った。