マリちゃんが一人暮らしをするアパートは、ハピーズ飯崎店からそう遠くない二番町という所にあった。
車を駐車場に停めて、私はアパートを見上げた。
古めかしい木造の二階建。
下町の匂いが漂うこの辺りに、それは恐ろしく馴染んでいたが、
マリちゃんが住んでいるのだと思うと不思議な気がする。
マリちゃんとこのアパートは、私の中でかけ離れたイメージだ。
そう広くはない駐車場を見渡すと、マリちゃんの愛車であるチェリーピンクのラパンが停まっていた。
けれど、佐倉くんの車は停まっていないようだ。
赤茶けてギィギィと鳴る階段を上がっていく。
階段の頂上には可愛げのない黒猫が一匹。
私をじとっと見つめる猫は、人間に慣れているのか動こうとはしなかった。
仕方がないので私の方が遠慮がちに通り過ぎる。
猫は、そんな私を嘲笑うかのように「ミャア」と鳴いた。