まだ、夜は明けきらない。
瞼を開ければ、窓から仄かな白い光が降り注いでいる。
あまり眠れなかった。
虚ろな意識でベッドから出て、リビングへ向かう。
二階の吹き抜け部分からリビングを見下ろすと、そこに千早がいた。
片手にはいつもの紙袋、小さな背中、金色の髪が揺れる。
「おい、もう…行くのか?」
俺の声に振り返った千早は、柔らかく微笑む。
「あぁ。桜子サマの屋敷に行くから。」
「…………。」
「また梓月が大騒ぎすると面倒だろ?少し早く行くよ。」
昔から変わらない、髪を一つに束ねる仕草。
リビングのドアに手をかける千早に、俺は慌てて言った。
「待てっ!駅まで…送る。」