人に抱きしめられる事なんか慣れてなくて。







伝わる壱の鼓動とか、気が遠くなるような温かさとか。




――苦しかった。でも。

誰かに受け止められる事がこんなにも幸福だったなんて。












気づけば、俺の頬を涙が伝う。





バカみたいだと思った。



どうして泣くんだ、こんな所で。

バカみたいだ。





俺は壱の身体をメチャクチャに叩くが、壱は動じなくて。


それどころか、抱きしめる腕の力を強めた。









視界が滲んで、
広場の頼りない電灯が、
欠けた月がぼやけていく。









壱は真っすぐで素直で、ときどき強気に出るクセに空回りする。


雑草みたいにしぶとくて、諦めが悪くて、不器用で。


Sのクセに、こんな時に優しくて――ムカつくんだよ。





手を伸ばし、縋りつくように俺は、壱の肩に顔を埋めて泣いた。



通り過ぎる人々の視線なんか気にならなくて、
ガキみたいに、ただ泣いた。







それを宥めるように、壱はいつまでも俺の頭を撫でる。






泣くつもりなんかなかったのに。






人に優しくされる事にも、抱きしめられる事にも慣れていない。



だから。

弱くなってしまうんだ。