そのまま、口を閉ざすことも出来たと思う。
けど、そう言って目を伏せた壱の横顔がなぜだか切なそうで。
ここでハンパなことをすれば、それは壱を傷つけることだと思った。
俺に合わせて、ギターを奏でてくれた壱を信じてないのと同じだ。
――信じたい。
信じなければ、何も始まらない。
俺は出来るだけ明るい声を出す。
重くなんねぇように、暗くなんねぇように、細心の注意を払って。
「男装は、ホームレスやってたからだよ。」
壱は俺の瞳を、ただ真っすぐに見つめた。
「女のままホームレスなんかやってたら何があるか分かんねぇだろ?まぁ、自分の身を守る方法かな。
男としてなら普通に受け入れてくれる、でも女ならそうはいかねぇ。」
「…そうか。」
「『Baby Apartment』は女立入禁止。男のフリすんのは慣れてるから、ある意味好都合だった。」
「…………。」
「ホームレスになったきっかけは、簡単だよ。
親に捨てられたからだ。」
俺は行き交う人々を見つめる。
そうしていると、どこか他人事のように話せた。