それから数曲、
俺は唄い、壱は弾き続けた。
通り過ぎる人々は皆、それぞれの場所へ急ぐ。
誰も立ち止まらない。
それでも俺は唄う。
それでも壱はギターを奏でる。
“いつか”を夢見て。
信じて。
今は、それだけだ。
街には夜が訪れて、空は濃い闇を纏っていた。
欠けた月が寂しそうに浮かんでいる。
駅前の広場のベンチに腰をおろして、俺は忙しそうに行き交う人々を見つめていた。
「…唄うよ、俺は。」
壱が俺を見つめた。
「こんな所で立ち止まってらんねぇ。」
「…………。」
「いつか、いるよな?耳を傾けてくれるヤツが。」
「…いるよ。少なくとも俺は、お前の歌声に動かされた。」
壱は3年前を思い出すように、遠い目をして言った。
「……なぁ、千早。」
「あ?」
俺が視線を向けると、壱は躊躇いがちに口を開く。
「…何で男装なんかしてんだ?」
「…………。」
「確かに『Baby Apartment』は女は立入禁止だが……ホームレスにしたって…。」
「…………。」
「…悪ィ。言いたくねぇならいいんだ。忘れてくれ。」