唄い終えて、
現実に引き戻されてみれば、何ら変わらない。
誰一人、足を止めることもなく、人々は忙しなく行き交っていた。
まるで、俺たちのいる片隅だけが引き離されてしまったような。
よく分からない孤独感が波のように押し寄せる。
「そんな顔するな。」
壱は呟いた。
けれど、俺は自分がどんな顔をしていたのか思い出せない。
「最初は、こんなもんだ。」
駅前の片隅、その一角で俺と壱は確かに生きていた。
生まれた音楽があった。
なのに。それが誰にも届かない。
それは、惨めで残酷な現実に思えた。
優しい音色を響かせながら壱は言う。
「唄えよ。」
「…分かってる。」
「必ずいる。千早の声に、俺の音に、足を止める奴が。」
「…………。」
「バカらしくっても、辛くても、それでも唄うんだ。」
「…………。」
「今日がダメなら明日。明日がダメなら明後日。
俺は弾く、だから唄え。」
優しいメロディーに不釣り合いな、皮肉っぽい不器用な言葉が少し可笑しかった。
ちょっとやそっとじゃ折れないんだろうな、壱は。
真っすぐに、がむしゃらに、信じた夢を追いかける壱は羨ましいくらい眩しかった。