そのイギリスのバンドの曲が、壱は一番好きだという。




疾走感溢れる爽やかな曲調で、それは初夏の夕暮れにピッタリだと思った。









駅前の雑踏、

電車が走りゆく音、

見知らぬ誰かの話し声。




いくつもの雑音の中で、でも確かに、壱が掻き鳴らすメロディーは生きていた。




3年前の、彼の音からは想像もつかないほど上手くて。



迷いのない綺麗な音が弾けていく、壱らしいなと思った。





そんな音に乗せて唄うことは、酷く気持ちがよくて。心地よくて。



ときどき壱と視線を絡めれば、不思議な一体感を感じられて。










一つの音と一つの声が同化して、一つの音楽が生まれる。












いつの間にか余分な肩の力が抜けていた。







赤とオレンジが混ざり合った空に向かって、楽しんで唄う。







それが出来たのは、やっぱりそこに、
壱がいたからだ。