「…千早。目、覚めたよ。」
「…………。」
「ありがとな。」
「うるせぇよ。」
そう言って、俺はアイスコーヒーを注いだグラスを差し出す。
「…あー、アレだ。焼きそばパンの礼。」
頭を掻く俺を、梓月は嬉しそうに見つめる。
自分のグラスを持って階段へ向かう。
自室へ引き上げようとした、その時だった。
リビングの小さな段差に躓いて――…。
「おっわっ!!!」
「――っぶね!!――っ!!」
…――何が起こった?
きつく閉じた瞼を開けると、俺は梓月の腕の中にいた。
梓月が着ている白いシャツは、俺がコーヒーをぶちまけたらしく黒ずんで透けている。
「ッ!悪ィ!!おまっ!大丈、」
そこまで言ったところで、梓月に遮られた。
「大丈夫か!?」
「あ…あぁ。」
「…良かった――…。」
梓月は力が抜けたように笑う。
俺とバチッと目が合うと、なぜか途端に顔を赤くした。
何だ…?
…つか、どーでもいいけど…………。
「おい…。」
「……え?」
「助けてもらっといて何だが……。」
俺は視線で訴えた。
未だに梓月の腕の中。
ガッシリと腰を抱えられていて身動きできない。
それに気づくと、梓月は慌てて手を離した。
「わ、わ、悪い!」
「いや…。」
梓月はアホみたいに狼狽えている。
……一体何なんだよ、おい。