夜風にあたっていると、少しずつ落ちついてきて、
そうすると今度は腹が減る。
せっかくの夕食を食えなかったことを後悔した。
キッチンへ行けば何かあるかもしれない、
一つの望みを胸に戻ろうとすると、バルコニーのドアの所に壱が立っていた。
……何だよ。いるなら、声かけろよ。
壱は白亜の壁に凭れかかっている。
「…何だよ?」
「お前、何かあったのか?」
「…な、んで?」
「いや…メシ残すなんて珍しいからさ。」
意外にも鋭くて、俺は反応に困った。
「…っ別に!何でもねぇよ。」
「…そうか。何かあったら俺に言えよ。」
「え?」
壱は躊躇ってから口を開く。
「大事なボーカルだからな。それに、お前が隠してることを知ってるのは俺だけだろ?」
「…言わねぇのか?」
そう尋ねると、壱はフッと笑う。
「言わねぇよ。…千早がいなくなったら、俺が困るんだから。」
あまり、人を信じたことがない。
人と深く関わったこともねぇ。
けどさ、何となく思ったんだ。
コイツはイイ奴かもしれない、なんてさ。