「はっ?お前、何言ってんの?」
それなりにファンもついて、順調に歩んできたってのに。
「悪ィ。」
「はっ?」
「……ミーコが妊娠した。」
「………は?」
哲也は筋肉質なガタイのいい身体を竦めて、俯いている。
ミーコというのは、哲也の女だ。
もともとは俺たちのファンで、
年上だがオレンジと緑に染めた髪をモヒカンにしているような、ファンキーな女。
「俺、結婚する。」
「だからって…。」
「…ミーコと赤ん坊を食わせてがなきゃなんねぇんだぜ。
いつまでも、壱(いち)と遊んでらんねぇよ。」
その時、俺は愕然とした。
哲也にとって、バンドは遊びだったのか?
17の時に結成してから6年、
俺の夢そのものだったバンドは呆気なく終わった。
その夜、俺は飲めない酒を
意識を飛ばすまで飲んだ。
翌日、
目を覚ました頃には、もう夕方。
酷い気分の悪さと吐き気で、トイレに駆け込んだ。
これから、深夜のカラオケ店でバイト。
今日は初出勤だってのに…。
声にならない声で、
押し寄せる胸焼けと共に何もかも吐き出してしまいたかった。
俺は音痴で、
だから哲也の歌声がなければ成立しない。
音楽でメシを食っていきてぇ、なんて
マジで思ってた俺がバカだったのか?