シゲさんとの別れは正直キツかったが、
俺はそれでも踏み出した。
あのババァに思い知らせてやるために。
俺は、俺の夢を叶えるために。
ネットカフェで見つけた可笑しな広告をメモした紙を見つめる。
アパートの入居者募集広告。
募集は、たった1名。
俺は当選したんだ、そのたった1名として。
家賃・光熱費は何とタダ。
このオイシイ話に俺は直ぐさま飛びついた。
ネットで見た画像では“アパート”と言いつつ、実際は一戸建てらしい。
アーチ型の窓、白亜の壁が眩しい二階建の豪邸。
画像で見るかぎり、物凄く洒落た家だった。
何年ぶりだろう。
しっかりした屋根のある家に住むのは。
腹いっぱい飯が食いたい。
期待に胸踊らせて、俺はまた雑踏の中へ踏み出した。
俺の頭上には、ただ雪みてぇに真っ白なだけの初夏の空が、
当たり前にそこにある。