開演時間直前。騒つく客席。





決して満員じゃねぇけど、それでも確かに――

俺たちの声は、

俺たちの音は、

誰かの心に届いてた。



届いてたんだ。








暗いステージの袖へ向かう、すでにいつものアコースティックギターを手にした壱はいた。





その背中は、広く大きく。


妙に色っぽいとか、
この状況で思った俺はけっこうキテるなと思う。










俺一人じゃ、きっとここまで辿り着けなかった。










壱が、俺を連れてきてくれたんだ。




負けそうになっても、
折れそうになっても、
そこに壱がいたから立っていられた。







世界はこんなにおもしろ可笑しいんだって、教えてくれたのは――。














「壱なんだよ。」


「え?」





壱の背中に、トンと額を預けた。


驚いた様子の壱が振り返ろうとするのを止めて、俺は言った。







「俺が砂漠に咲く花なら――。」


「?」


「壱は、どこまでも続く青空だ。」


「…………。」


「いつも、そこにいてくれた。」


「……千早?」


「…………って!俺、ポエマーかよっ!」


「へ?」




気恥ずかしくなって、自分で自分にツッコんでしまった。








壱の顔が見えなくて、心から良かったと思う。