壱の指先がしなやかに動いて、音がメロディーとなって溢れていく。





それは力強い、明るいロックだった。




お世辞にも上手いとは言えない歌声だったけど、不思議と気にならなかった。



歌詞は王道青春ソングって感じ?


何となく学園ドラマなんかの主題歌っポイ。




弾けるような、走りだしたくなるようなメロディーが心地よかった。










でも。


俺は、サビの部分で眉を寄せた。





演奏を終えた壱に、問いかける。




「…何だよ、サビの歌詞。」






俺の言いたいことを理解したのか、壱は真っすぐに俺を見据えた。





「俺に…唄えるわけねぇだろ。」










サビの歌詞は、
母親に対する寂しさ、怒り、感謝を綴ったもの。


全体的に思春期の思いをぶつけたような歌詞、その中でサビには母親への気持ちが描かれている。







「実は、サビの部分だけ歌詞を書き換えたんだ。」


「ッ何で、そんなことっ!」


「千早…本当は、母親を憎んでなんかいないんだろ?
本当は、自分の方を向いてほしかった。
うんざりした日もあったかもしれねぇけど、娘として母親の心配もしてたはずだ。」


「…………。」