「…そんなんじゃねぇよ。ただ…ただ、誰かが欠けるのが嫌だっただけだ。」






仲間だから。

でも、それは口にしなかった。
さすがに、んなこと何度も言うのはこっ恥ずかしい。







空に浮かぶ月は、まるでボートのような形をしていて、銀色に輝き俺たちを照らす。



蒸し暑さの中で、
それでもゆるゆると吹く風には秋の香りが混じっていた。






俺は夜空を仰いで呟いた。



「香住サン、
部屋の大掃除なんて言ってたけど、引っ越すから…だから整理してたんだな。」




そういえば、執筆の資料だというAVを全て処分していた。


……もう、ずっと…覚悟を決めてたのか。









「離れるってだけで、何も変わんねぇよ。
会おうと思えば、いつでも会える。」




壱はそう言って、ギターを鳴らした。


一つ、ふわりと音が夜空へ舞う。





「…そういえば、曲が出来たって言ってたよな?」


「え?あぁ。」


「聞かせてくれよ。」







壱は、一度俯くとポツリと零した。



「…俺、言っとくけど音痴だからな。…笑うなよ。」




居心地の悪そうな壱の言い方が可笑しくて、俺は思わず頬を緩める。










…ホント、変な奴だよなぁ。






この見るからに好青年な男が、最近ときどき可愛く思えてしまう俺は、どうかしてんのかな。