「夢を、諦めようと思っています。
実は、随分と長い間お世話になっていた出版社から編集の仕事をやってみないか、と誘われていて。
昔から、お前は裏方向きだよ、なんて言われていたんですが。」
「それで!諦めるのか!?小説家を!?」
身を乗り出して梓月が言った。
香住サンはそんな梓月を見つめて、穏やかな口調で答える。
「もう、やるだけのことはやってきましたから。後悔はありません。
本に関する仕事が出来るだけ、救われました。」
「だからって!出ていかなくたってっ!!」
俺が立ち上がると、
香住サンは困ったように笑う。
「桜子サマの逆ハーレムと言っても、ここは夢を追いかける者のための場所です。
僕がいるわけにはいかないんですよ。」
……何で、そんな、簡単に言うんだよ。
何で、出てくとか…。
狼狽える俺に対して、壱は冷静に口を開いた。
「…本当に、後悔してねぇんだな?――後悔しねぇんだな?」
「――はい。」
フッと微笑んだ香住サンは迷いなく答えた。
「だったら。
俺は、これ以上何も言わねぇ。」
「なっ!?壱!!」
コイツ!何言って!!
信じらんねぇって顔してる俺を、壱は真っすぐ見つめた。