「――生まれてきた意味なんか、誰にもねぇんだよ。」
「…………。」
「意味なんか考えんな。
それは、生きていくことで見いだせんだよ。自分の周りの人間や些細な毎日の中で。
今、千早を探してる、この雨ん中で走り回ってる、女だろうが男だろうが関係ねぇって当たり前に言える――香住や、梓月や、リョウ。
アイツらが千早を心配して大切に思う。
あのバカデカい家で、一緒にメシ食ったり、言い争ったりしながら。
生きていくことで、
ふとした時に感じる幸せに、誰かのあったかさに、
――意味はあるんだよ。」
「…………。」
「千早。帰ろう、俺たちの家に。」
そこで、千早は顔を上げた。
瞳に、溢れんばかりの涙をためて。
「ッ俺を許すのか!?俺はお前らにっ!!」
瞼を閉じた千早は俯く。
長い睫毛が涙に濡れていた。
自らを落ちつかせるように深呼吸を繰り返す。
「…なぁ、千早。」
「…………。」
「ムカついたら、殴り飛ばしたって、蹴り飛ばしたっていい。
暴言でも文句でも、好きなだけ吐きゃいい。
でも、俺が一番嫌なのは、千早が一人で泣くことだ。」
俺を見つめる、涙に濡れた瞳。
「頼むから、一人ぼっちで泣くなよ。一人ぼっちで傷つくなよ。」
「…俺は、」
「――そのまんまの千早でいい。
痛みも悲しみも全部引っ括めて、今ここにいる千早が真実だ。
全部まとめて、俺はお前が好きだ。」