「問い詰めたって、結局何も変わんねぇ。誰のガキだか、なんて…。
ただ…ただ。あの人は、俺が生まれるずっと前から今の仕事をしてた。
心底惚れた男がいて、そいつの為なら仕事も辞めて結婚しよう…そう思ってた矢先、腹ん中には俺がいた。
日頃、遊び歩いてたツケなのか……もともと相手の親に反対された結婚で、そのまんま別れたらしい。
……賭けだったのかもな。その男のガキであることを祈ってた。…でも、生まれてみたら全然似ちゃいねぇ。」


「…………。」


「初めて、面と向かって言われたよ。
“アンタさえいなければ、あの人を失わなかったかもしれない”。」


「…………。」


「変な話だけど、スッキリした――。
これでもう何の期待も抱かなくていいんだから。
あの人の本心が分かって、もう縛られることもない。
ある程度の事情が分かって、やっと解放された気分だ。」


「…………。」


「生まれてきた意味なんかねぇけど、望まれてないわけでもなかった。――それで、充分だ。」








千早は、そこまで話すと目を伏せた。





黒い傘は打ちつける雨を弾いている。