「…千早。」
一歩一歩と歩み寄って声をかけると、千早の肩がピクリと揺れた。
俯いたままの千早。
「…変わらねぇな。ここは。」
「…………。」
ざんざんと、降り止まぬ雨。
雨音だけが永遠と聞こえている。
ポツリ、ポツリと。
呟くように、千早が口を開いた。
「あの人に会ったんだ。」
「…あぁ。」
“あの人”というのは、たぶん。母親のことだろう。
「……久しぶりに会ったけど、相変わらずだった。」
「…うん。」
「…子供の頃、俺はあの人が怖かった。いつも、俺を責めるような目で見てたから。
…だから、母親に甘えた記憶もねぇんだ。」
「…うん。」
千早は、そこでハァと大きく息を吐いた。