「自分を責めても、千早くんは帰ってきませんよ。」
ゆらりと立ち上がりながら、香住が言った。
「壱は、時々呆れるくらいヘタレですよねぇ。」
「…………。」
「そんなんじゃ、安心して千早くんを任せられないでしょう?」
香住の言葉の意味がよく分からず、俺は顔を上げた。
まるで、何もかも見透かしているような目が、俺に向けられている。
「まだ分からないんですか?
いくら正体を知っていたからって、壱にそこまで話したワケ。」
「…………。」
「壱を、本気で信頼しているからでしょう?」
「…………。」
「あの野良犬のような千早くんが、心を開いていたからでしょう?」
「…………。」
「――その信頼に、答えて上げてください。」
ニコリ、笑う香住。
瞳を閉じると、千早と過ごしてきた日々が甦る。
耳に残り続ける千早の歌声。
俺は瞼を開ける。
香住を、梓月を、リョウを、真っすぐに見据えた。