「千早が……女…?」


確かめるように、梓月が呟く。




「…香住は気づいてた…?リョウは…?」


「…最近、知った。」


「……あ〜クソ!俺だけかよ…。」



梓月は、そう言って頭を掻く。







俺は、千早がぶっ壊したアダルトビデオを拾い上げる。



中のテープが引きずりだされて無惨な姿だ。





「やっぱり…女の子だから嫌だったのかな…?」




ビデオテープを見つめて呟いたリョウの言葉に、俺は首を横に振る。


「……この渚って女優は……たぶん千早の母親だ。」








ピンと張り詰めた空気の中に、俺の声が静かに響いた。





外では絶えず雨が降っている。












「俺は…3年前に千早と会ってる。その時、アイツはまだ高校生だったけど…男の振りしてホームレスやってた。
母親から疎まれて、どこにも居場所なんかなかったのかもしれない。
アイツはずっと、気にしながら生きていたのかもしれない。
自分の存在を…父親が誰かも知らず、
誰からも必要とされてこなかった――そんな自分が生まれてきた意味を。」




誰も、何も言わなかった。


俺は言葉を続ける。




「今さら…何言ってんだって話だろ?俺は、気づかなかった。
千早が抱えてきたものの根深さに。……結局、表しか見えてなかったんだ。
……何も、見えてなかった。」