――梓月は、静かに口を開いた。
「バーカ。」
「…………。」
「んな気にしてんじゃねぇよ。俺様はな、モテモテだから、このくらいどーってことねぇの。
むしろ、テメェは俺をフッたことを一生後悔すんだな。」
「…………。」
それは、梓月の精一杯の優しさと強がりで。
梓月の声が微かに震えていて――震えていて。
「…ゴメン。」
バカの一つ覚えみたいにそれしか言えない俺を、梓月はさらにギュッと抱きしめた。
「…ッ梓月…。」
「今だけだから。」
「…………。」
「…今だけ、このままでいてくれ。」
俺を、俺なんかを、
好きになってくれてありがとう。
その言葉を、俺は心の中で叫び続けた。
叫び続けていた。
「千早も変わったよな…。」
「…………。」
「ここに来た頃は尖ってたけど、今は…よく笑うようになった。」
それから、梓月は一言も話さなかった。
俺も、話さなかった。
ただ、藍色の夜の下で、
随分と長い間抱きしめられていた。