曲を弾き終わると、俺は胸を撫で下ろした。
ガラにもなく、無意識に緊張していたようだ。
「……俺はバンドでメシを食っていきたいって思ってる。そのために、どうしても君の歌が必要なんだ。
頼む、俺と組んでくれ。」
「……最悪だな。」
「…え?」
「時間を無駄にした。最悪の音だ。」
立ち去っていく花本千早。
俺は慌てて、その腕を掴んだ。
「…どういう意味だ?」
「……アンタさぁ、自分で上手いと思ってんだろ?
そうやって自惚れてるかぎり、それ以上成長出来ねぇんだろうなぁ。
独り善がりの、サイテーな演奏だ。」
何も言えなかった。
俺を見上げる花本千早の視線は、突き刺さるように痛い。
「俺はバンドなんか興味ねぇし、歌唄って飯食ってこうなんて思ってねぇんだよ。アンタと組む気もねぇ。」
吐き捨てるように言った花本千早の腕を握る手に、力がこもった。
「何でだ?」
「はっ?」
「…君が男装してホームレスやってんのと、何か関係があるのか?」
その瞬間、
花本千早は目を見開いた。
「それだけの才能があるのに歌わないなんて。君は一体、」