「シゲさんは、ラジオで紅白聞くことを毎年楽しみにしてんだ。
あの人も、若い頃は歌手になりてぇって夢を持ってたらしい。
俺は紅白なんて何が面白れぇのか分かんなかったけど、
3年前の大晦日、ラジオの紅白から流れる演歌聞きながら、シゲさんがビービービービー泣いてたんだよ。」


「…………。」


「あん時、シゲさんが言ったんだ。
昔、中途半端なまま夢を諦めたことを後悔してるって。
人生は、いくつもの後悔ばっかりだってさ。」


「…………。」


「シゲさんが泣いてるとこを初めて見たんだ。
泣きながらさ、一生懸命言うんだよ。
“千早はこんなとこで人生捨てんな!そんなの俺が許さねぇぞっ!”って。
何かさ、歌の力ってスゲェなって思った。
人を泣かせることも、人を奮い立たせることも出来るんだって。……俺は、あの日、漠然と。歌手になりてぇって思った。」







俺の話を黙って聞いていた壱は、俺の手をギュッと握った。



驚いて顔を上げるが、
壱は目を合わせないままステージを見据えていた。









「あのオッサン、良いオッサンだな。」


「あぁ。」







繋がれた手から伝わる温もりが、何だか胸を締めつける。