コウさんは、それから、
知り合いのライブの手伝いで出かける、と壱に鍵を渡した。



「戸締まり宜しく!」





その関係性から、二人が信頼し合ってることが窺えた。










俺は、ライブハウスの中を見渡して言った。


「何でライブハウスに?」




しかし、
壱は俺の問いには答えず、口を開いた。



「千早が歌手になる夢を持ったのは、母親を見返すためだけか?」


「…それもあるけど……一番は紅白かな。」


「紅白?」


「3年前、壱と初めて会った頃、俺すっげぇヤサぐれててさ。
あんな母親が心底嫌で、毎日が嫌で――。
だから、初めて壱と会った時も、真っすぐにテメェの夢語れる壱にムカついたんだ。
ムカついて、でも羨ましかった。……俺には何にもなかったからさ。」


「…………。」


「…シゲさんのこと覚えてるか?」


「え…。…あっ、あのホームレスの……?」



壱は少し考えてから、そう言った。