「行きたい所がある。」、と壱が言った。
俺は、ギターを背負う壱の後ろをついていく。
それは、家とは逆方向だった。
いつか香住サンと行ったスーパーマーケットの前も通り過ぎて――たどり着いた場所。
「……ライブハウス?」
そう呟いた俺の隣で、壱は小さく微笑んだ。
「ついてこい。」
「え?」
狭い入り口、
壁には70年代、80年代のマニアックなバンドのポスター。
入り口の向こうは細い階段で、俺は壱の後について地下へと降りた。
すると、左側に重い扉。
壱は、それに手をかける。
扉が開くと、そこには広々とした客席があった。
客席と言っても座席はなくて、その真っ正面にはステージ。
暗がりの中で、ステージだけに白い光が落ちている。
人の気配はないと思っていたが、背後から声がした。
「よぉ、来たか。」
振り向くと、イカツイ長身の男が立っていた。
長い黒髪を後ろで一つに束ねている。
20代後半くらいか?
黒いタンクトップを着ていて、
ワイルドな小麦色の肌、その腕は筋肉質で血管が浮き出ていた。
見た目は、どっかの格闘家のように見える。