来た道程を戻り、上ってきた階段の手前まで来ると花本千早は無愛想に言った。
「めんどくせぇ。」
「え?」
「お断わりだな。バンドだか何だか知らねぇけど、分かったら消えろ。」
酷く不機嫌そうで、
その真っすぐな瞳に初めてまともに見つめられて、俺はまた心臓が跳ねた。
「ちょっと待ってくれっ!頼むから……チャンスをくれ!」
「チャンス?」
「今、ここでギターを弾くから。認めてくれたら、俺と組んでくれ!」
「認めるって、何を…。」
俺は、花本千早に耳をかさず、慌ててギターを引っ張りだした。
必死だった。
ここで、コイツを逃がすわけにはいかないんだ。
花本千早は腕を組み、諦めたように溜め息を吐いた。
俺は一つ呼吸をして、ピックで音を紡いでいく。
高校時代にバンドを始めるきっかけになった、イギリスのバンドの曲だ。
俺が一番好きな曲。
夜の公園にギターの音色が響く。
吐く息は白く、風は冷たい。
今、俺と花本千早を取り囲むものは、藍色の夜とロック。
自信はある。
必ず頷かせてみせる。