「おめぇ、誰だ?」


「いや、あの…千早さんに………。」


「千早?おめぇの知り合いか?」



花本千早は怪訝な表情で呟いた。


「…知らねぇな。」


「だとよ。
おい、兄ちゃん。ここはホームレスの溜まり場だ。とっとと出ていけや。」





有無を言わせない空気、

威圧感。





俺は意を決して口を開いた。




「『カラッ!カラッ!カラオケ本舗』で働いています、
梅田 壱(うめだ・いち)と言います。」


「カラッカラッ?」


シゲさんは眉をひそめる。




「昨夜、千早さんが当店に来店されて。偶然、千早さんの歌を聴きました。
私はアマチュアバンドを組んでいましたが、
ボーカルが抜けてしまったため、新しいボーカルを探しています。
俺は……千早さんの歌に惚れました!宜しければ、俺とバンドを組んでもらえませんか!?」




頭を下げた俺を、シゲさんは不思議そうに見下ろす。



花本千早は、まだ一度も目を合わせてくれない。










「おい、千早。どうすんだ?」


「知らねぇって。」




シゲさんは困ったように口を開く。


「カラカラだ、バンドーだ、俺にゃ この兄ちゃんの言ってることがよく分かんねぇ。
千早。おめぇ、ちゃんと二人で話してこい。」


「あ゛?イモは?」


「……残しといてやるから。」






花本千早は、渋々立ち上がった。