奥へ進むとスプレーで落書きされた壁、その更に向こうには小川があるようだ。
さらさらと水の流れる音が聞こえる。
落書きされた壁の下で、一人のオッサンが火を焚いていた。
「やっぱり焼きイモだ!匂いがしたからさ!」
オッサンに駆け寄る花本千早は笑った。
初めて見た笑顔だ。
俺は、なぜかドキリとした。
「千早は本当に鼻がいいなぁ。独り占めしようと思ってたのによ。」
「シゲさん、そりゃねぇよ!くれよ!イモ!」
「わぁーった、わぁーった。」
シゲさんと呼ばれたオッサンは白髪交じりの髪で、黒いニット帽を被っている。
洋梨のような体型で、ベルトに腹の肉が乗っていた。
花本千早と同じように、汚れた服に身を包んでいる。
「もう12月だな。シゲさん、紅白楽しみなんだろ?」
「あったりめぇだ。紅白と焼酎がねぇと、年は越せねぇさ。」
「飲み過ぎだっての。」
その時、俺はシゲさんと目が合ってしまった。
「誰だ?」
ドスの効いた低い声。
花本千早が振り返る。
俺は、酷く動揺した。