温い風が吹く、
夜が街に影を落とす。








千早が待ってるなんて思っちゃいない。




それでも、淡い期待を持って辺りを見渡すと、向かいの店先――その奥の路地裏で千早は座り込んでいた。






俺の視線に気づいたのか、こちらへ顔を向ける。




そうして、千早は俺に微笑みかけた。







「おせぇよ。」


「……俺を、待ってたのか?」


「あぁ。」



当たり前だ、とでも言うように答えて、
千早は俺に歩み寄る。




「梓月。」


「え…?」






名前を呼ばれただけで、心臓が飛び跳ねた。





「俺さ、演劇のことなんかよく分かんねぇけど…来て良かったよ。」


「…………。」


「自信なくしてた梓月が真っ正面から芝居と向き合ってた。なんか安心したよ。」


「千早…。」


「すっげぇイイ顔してたぜ!マジで格好良かった。」


「!」






千早が何気なく言うもんだから、俺は一瞬聞き逃してしまいそうになった。





自分の頬が熱くなるのを感じる。










こんなの、反則だろ…。




俺の心臓が、爆発でもしたらどうすんだ!?