「…昔、ここでプロポーズを断られた事があるんです。」
「え…?」
「恋愛も、夢も、追いかけすぎても駄目なのかもしれませんね。
逃げていってしまうから。」
「…………。」
「…なんて、昔の話ですよ。」
そう言って誤魔化してみたものの、千早くんは真っすぐに俺を見つめていた。
その瞳は、まるで何もかも見透かしているようで。
「クリームソーダ美味しいですか?」、と話題を変えた時。
千早くんの細い腕が、俺の頭に伸びた。
「なぁに弱気になってんだよっ!」
そう言って、クシャクシャと俺の頭を撫で回す。
「おらっ!」
次の瞬間には、千早くんは俺の顎をクイッと掴むと、スプーンで掬ったアイスを口へ押し込んできた。
冷たさと甘さが、口の中に広がる。
「暑さにヤラれたんじゃねぇ?
ウマいもん食ってさぁ、また顔上げりゃいいんだよ!」
千早くんは、イタズラっぽく笑った。
極上の、とびきりの笑顔だった。