千早くんが『Baby Apartment』に入居した日。
初めて会った、歓迎パーティーの夜だ。
ちょっとした仕草や雰囲気で、俺は気づいてしまった。
千早くんは“女の子”だと。
だてに官能小説家を目指してきたわけじゃない。
些細な男女の違いくらい、気づいて当たり前だ。
男装をしている理由やその素性について事実は知らないが、千早くんには千早くんなりの事情があるのだろうと、俺は黙って目を瞑ることにした。
最初は、変わった子だと思った。
それから、面白い子だと思った。
口が悪くて、無愛想な。
でも、ときどき垣間見る女の子の表情が可愛くて。
だから、この間のアイスクリームの時は、つい年甲斐もなく調子に乗ってしまった。
――千早くんを見ていると、飽きない。
いつも仏頂面、でも食べ物を目の前にするととびきりの笑顔になる。
俺が作った料理に、笑顔を見せてくれる。
そんなことが、なぜだか心底嬉しかった。