面白い子だなぁ、と思う。
千早くんは、それは美味しそうにクリームソーダを楽しんでいる。
スプーンでアイスを掬い、それを口へ運ぶと幸せそうに笑った。
つられて、思わず俺も頬が緩む。
最近避けられているようだったが、食べ物で誘えば従順についてきてしまう千早くん。
本当に、面白い子だと思う。
「こんな所に喫茶店があるなんて知らなかった。」
千早くんはスプーンをくわえたまま、薄暗い店内を見渡して言った。
「小説が煮詰まると、よく来るんです。」
俺はコーヒーを啜る。
千早くんの背後に視線をやる――壁に掛かっていたのは紫陽花の絵ではなく、夏らしい向日葵の絵に変わっていた。
まるで純真無垢な子供のようにクリームソーダを頬張る千早くんを見ていると、心が軽くなっていく気がした。
癒されるっていうのは、こういう事なのかもしれない。
白い肌、長い睫毛、赤い唇、
くっきりと浮かんだ鎖骨。小さな身体。
千早くんは決して知らないだろう。
――君の正体に、俺が気づいているという事を。